ホーム > Webマガジン > 嗅覚(Cheirar)
  今回は、ブラックコメディー異色作『下水って、匂う。』について、ブラジル音楽と映画に精通し、CDのガイドブックの著者や雑誌のライターなど多方面で活躍されている麻生雅人氏に語っていただきました。
(text: tupiniquim)

Tupiniquim(以下、T):  強烈なタイトルが付けられた作品ですが、ファースト・インプレッションを教えてください。
麻生氏: まず、いわゆる“ブラジルらしい”映画ではない、と思いました。これまで、日本で公開されたブラジル映画というと、犯罪とか貧困をテーマにしたもの、もしくはノルデスチ(ブラジル北東部)を描いたものが主で、ブラジルを知らない人にとっては入りにくいところがあったとすると、この映画は、全世界に共通するというか、「同じ人間だよね。」と思わせる人間くさ~いところを突いてくる。そういう意味で“ブラジル映画”という枠では括り切れないですよね。都会生活者であれば誰しも感じたことがある閉塞感だったり、妄想なのか現実なのか分からない加減具合とか、必ずしも“ブラジル”っていうキーワードが必要なかったというか。

T: 確かに。レンタルビデオ屋さんだったら、ブラジル映画の棚より、ミニシアター系の作品を置く棚に陳列されていそうですね。 “お尻”と“下水のにおい”に取りつかれる主人公というのも一風変わってると思うのですが。
麻生氏:  この映画の登場人物はほとんどどっかヘンな人たちで、心に闇を持っていますよね。宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』の登場人物がみんな“イイヒト”ですが、一方でこの映画はヘンな人がいっぱいで、しかもヤな奴が軸になってる。セルトン・メロが演じる主人公の男は、お尻さえあれば、その女性の人格はどうでもいっていう、冷静に考えればすごくヤなやつ。だけど憎めない。それは、私たち誰もが持ち得るけれど、蓋をして隠しておきたい部分を見せ切ってしまう潔さのせいかもしれない。

願望はあっても、なかったことにしている部分を、ここまで表に出せたら解放されるんじゃないかと思わせられるところが面白い。 映画じゃないと起こりえないサイキックな世界なんだけれど、 デフォルメ化された世界だと思って見れば、描かれている一つ一つが、自分自身に反映されて見えてくると思うんです。

T: においに関する着眼点がおもしろいと思いましたが、いかがですか?
麻生氏: “におい”って最も動物的な感覚だと思うんですよ。クサイって分かっていても嗅いでしまうってあるじゃないですか。ヒトって、年を取るにつれて“におい”に敏感になりますよね。子どもの時は“におい”が好きなんです。でも、他人にどう思われるかを意識し始める10代20代では急に潔癖になったりして。それが、30代40代では、汗臭い女性の方がセクシーと感じるようになったりとかね。五感を刺激するのは、映画のテーマとして良くできていると思います。人間のダークで“負”な部分を見せつけて、「お前もこういうところあるよね。」的に突きつけるところ。第1回ブラジル映画祭で上映された『マンゴー・イエロー』もすばらしい作品で大好きですけど、同類の強烈さがありますね。なにはともあれ、基本的にはブラック・コメディなので、深く考えずに楽しんで欲しいですね。この映画は好みがハッキリ分かれる作品だと思います。ちょっと でも心の中に闇を持っていてそれを認められる人だったら、本当は人に知られたくないその闇を覗かれているような気がしてきて、快感になります(笑)。

T: 個性派俳優のキャスティングも見どころですね。
麻生氏: 主人公を演じるセルトン・メロ*1は、ブラジルの人気俳優。日本で公開された作品だと『クアトロ・ディアス』*2が有名ですね。2008年新春にブラジルで公開されたばかりの新作『Meu Nome Não é Johnny』も早く見たいです。あと、すごくびっくりしたのが、アリス・ブラガ*3。『シティ・オブ・ゴッド』のヒロイン役の時より大分印象が変わったのと、あまりに意外なところで登場したので、まさかと思いました。

T: そうなんですよ。一回見ただけでは気付かず、後でキャスティングノーツを見て知りました。見直したら、確かに彼女だと。目から鱗でしたね。あと、フラヴィオ・バウラキ*4が出てたり。
麻生氏: この作品、カメレオン出演が多いんですよ。アリス・ブラガの他にも、トビーアス・ダ・ヴァイヴァイやネグロ・ヒコが出てるんです。トビーアスといったらサンパウロのサンバチーム、“ヴァイヴァイ”の看板歌手ですが、『Antônia』*5で映画出演を果たしてから、映画の方にも進出しているようですね。ネグロ・ヒコは、カバウ(ブラジルのヒップホップシーンを牽引するラッパー)と一緒に2007年2月に来日も果たした若手DJ。アドリアーナ・カルカニョットを神経質にしたような女優さんも、イイ味だしてますよね。どのシーンとは言いませんから、上映中に探してみるのも楽しいと思います。
 
  トレーラーを見る

T: 麻生さん、楽しいお話をありがとうございました!

麻生雅人

写真、左はセルジーニョ・グロイスマン!

雑文から音楽評論まで。書籍編集、番組構成、CD監修なども。「ブラジル大作戦」(MUSIC AIR)、「Radio Brisa Brasileira」(STARdigio)が放送中。編集を手がけた書籍は「サンバ」、「ブラジリアン・ミュージック」(共にシンコー・ミュージッ ク)など。日伯交流年 ブラジル大使館公式プロモーションBLOG「brasil2008」では「東京BRASIL散歩」を連載。個人blogでもほぼ毎 日ブラジル関連情報紹介中。

参考文献・資料    Adoro Cinema

     
ホーム | プログラム | スケジュール | チケット | 会場 | Webマガジン | 映画祭について
 
Information: info@tupiniquim.jp
Copyright © 2008 Tupiniquim Entertainment Co., Ltd. All rights reserved.